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最高裁判所第三小法廷 昭和31年(オ)148号 判決 1957年12月24日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人田中一男の上告理由(第二を含む)について。

所論は、上告代理人は上告人と被上告人との間に有効に成立した和解契約に基き、上告人と被上告人との両者の請託を受諾してその契約どおり誠実に実行して被上告人の代理資格において本件公正証書の作成に関与したのであるから、上告代理人の行為はなんら当事者の利益保護の目的に反したものではなく、また弁護士としての職務執行に関し綱紀と品位を汚したものではないので、原審の判断は弁護士法二五条の解釈適用を誤つたものであり、原判決が有効な前記契約に合致して作成された本件公正証書を無効と判断したことは、審理不尽、理由不備の違法があると主張する。

上告代理人弁護士田中一男が被上告人だけの委任を受けたものではなく、上告人と被上告人との両者の契約上の趣旨を受諾して被上告人の代理資格をもつて本件公正証書を作成したとの所論事実は、原判決においても同様に認定したところであること判文上明らかであるから、この点につき所論の審理不尽、理由不備の違法はない。原判決は、右田中一男は被上告人の代理人となつて右公正証書を作成する以前に、あらかじめ上告人からの依頼を受けて、被上告人代表者伊藤喜代和らとその内容事実について協議して契約を成立させたこと、本件公正証書の内容は、右契約条項と同趣旨のものであることを認定しているのであるから、上告代理人田中一男の行為は、まさに弁護士法二五条一号の「相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件」についてその職務を行つたものであること明らかである。そしてかかる場合には、受任している事件の依頼者の同意があつたとしても、その職務を行つてはならないこと、同条但し書に徴して疑いないのであるから、右田中一男が被上告人の代理人たる資格において本件公正証書を作成した行為は、弁護士法二五条一号の規定に違反するものと認めざるをえないこと、原判決の説示するとおりである(昭和一三年(オ)一七六八号同一四年八月一二日大審院判決、民集一八巻九一一頁、昭和九年(オ)一〇一〇号同年一二月二二日大審院判決、民集一三巻二二三六頁参照)。そして本件公正証書は、弁護士たる田中一男において職務上行いえない行為に基いて作成されたものであるから、無効と解するのほかないことも、原判示のとおりである。それゆえ、原判決には所論の違法はなく、論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己)

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